近年のインターネットおよびWWWの普及に伴い,文書をディジタル化して蓄積しネットワーク上で提供するディジタル図書館の実現への気運が高まっている. 図書館は従来から多言語の資料を蓄積し,提供してきている. したがってディジタル図書館の実現に際しても多言語の文書を扱える環境は必須である. しかしながら現在のコンピュータ上で多言語の文書を扱う環境は貧弱であると言わざるを得ない. この理由として,第一に多言語を扱える文字コード系が一般に普及していない,第二に通常コンピュータ上にその国で使われる文字フォントしか用意されていないという二つの問題を指摘することができる. 前者の問題については,多言語を扱える文字コード系としてUnicode(ISO-10646-1)が使われるようになってきており,将来的にはある程度改善されることが期待される. しかし,後者の問題については,将来的にも簡単に解決できるものではないと思われる. 現状では,例えば日本で使われるコンピュータでは日本語と英語のフォントしか用意されておらず,他の言語を扱うにはその言語のフォントや対応するソフトウェアを用意しなければならない. 将来的にUnicodeなどの多言語を扱える文字コード系が普及したとしても,すべてのユーザの端末にマイナーな言語を含む全世界の言語の文字フォントを用意することは将来的にみても現実的ではないと思われる. また,図書館の観点からすると異体字や古典文字など既存の文字セットに含まれない文字も例外なく扱えるべきである.
これらの問題に対処するための一つの方法として,本研究ではユーザの端末側にフォントのインストールの必要がないWWW文書のための多言語ブラウザを開発した[1,2,3,4]. また,インターネット上でこのブラウザのサービスの提供実験を行い,アクセス記録の分析,利用者による評価を行った.
本論文では,まずWWWにおける多言語文書のブラウジングの一般的な問題点について述べ,本研究で開発した多言語ブラウザの機能,ブラウザをインターネット上でサービスするためのサーバシステムの構築,ブラウザの利用方法,サーバシステムの管理方法,およびインターネット上でのサービスの提供実験とその評価について述べる.